クリスティーを読み始めて10年以上経つ。やっと56冊目。全部読破するにはまだまだ先が長そうだ…。
クリスティーは、犯人の意外性、トリックの巧みさ、人物描写のうまさ、の3つのバランスがとてもいい。この短編集では、それぞれの作品でこれらの要素のうちどれかがが引き立たされている（たとえば、冒頭の「レガッタ・デーの事件」では犯人の意外性）が、本全体としてバランスがとれていると思う。
それに加えて、オカルト的な「仄暗い鏡の中に」があるのもいい。オカルトとミステリの微妙な関係もクリスティーの得意とするところ。作品ごとに、オカルトを許容するのか、しないのかを、見極めなければならない。
この短編集のうち、いくつかは他の自身の作品と類似している。これは解説でも触れられている。単なる習作（プロトタイプ）なのか、それとも自己模倣なのかが、ちょっと気になるところ。どちらにしても、筋が分かっているので、つい流し読みになってしまう。違いを味わうのがファンなのだろうが、そこまではする気はなかった。
そういえば、ひさびさにパーカー・パインが登場してくれたのはうれしかった。短編向きのキャラクターなのか、残念ながら作品数が少ない。それだけに出会うとうれしい。クィンもそう。今度はいつ出会えるだろう。