クリスティーの短編集はいくつか出ているが、これはどこかひと味違うように感じた。どちらかというと中篇に属する作品が多く、その分味付けがしっかりされているからだろう。本当に短い作品ばかりだと、淡白になりがちだ。
もうひとつ違う点は、おそらくこれはアンソロジーとして編まれたものだろうということ。「スペイン櫃の秘密」はすでに他の短編集に収録されているし、他の作品のいくつかもどこか別のところが初出だったような気がする。ただ、そうして集めた作品であるものの、どういう意図で編纂されたのかは今ひとつよく分からない。まえがきにはこれらの作品をクリスマス・ディナーに例えてはいるが、それに適（かな）っているかどうか。
ところで今回は、秘書のミス・レモン、執事のジョージは出てくるが、ヘイスティングスは出てこなかった。これは中期の作品の特徴、なのかな。作品発表順に読んでいないので、このあたりのことはほとんど把握していない。リアルタイムに読んでいる人は詳しいんだろうな。うらやましい。