最初に事件当事者6人の回想から始まるという、一風変わった構成。それでいて奇抜な感じはしない。とてもよく考え抜かれた作品だと思う。1つの事象が、視点が変わればこんなに印象が違うのかというのを改めて感じた。当たり前のことだが、それを表現するのはとても難しい。
特に似ているというわけではないが、なぜか森博嗣の作品を連想してしまった。トリックの性格が近いのかもしれないが、それだけではなく、作品全体の文体の醸し出す雰囲気のせいなのかもしれない。だとすると、作品そのものではなく、訳のせいか。
多くのクリスティーの作品がそうであったように、この作品もまた「愛」をテーマにしている。いろんな形の愛がある。それが面白い。
ところで、この邦題はどこか違和感がある。「忘られぬ」とはとてもいいづらい。普通は「忘れられぬ」になると思うのだが。