政治って難しいねぇ、とつくづくそう思った。舞台は古代エジプトだが、今でもそのまま通じそうなお話。というか、現代政治のメタファー（隠喩）として描いたのかもしれない。陰謀とかそういうのは現代では少なくなってきているだろうが。そういう観点では日本では奈良・平安・鎌倉・室町あたりの時代ではそのまま通用しそうな気がする。
それにしても、こういった政治劇をクリスティーが書いたとは知らなかった。しかも戯曲で。てっきりこの作品も他の戯曲作品と同様、ミステリー作品かと思っていた。
この舞台設定はエジプト考古学では謎とされている部分だという（吉村さんの解説によれば）。前にも書いたことがあるが、こういう歴史上の謎とミステリー作家は相性が良いらしい。たしかに、謎についてあれこれ推測するのだから、ミステリー作家の本領が発揮できるのだろう。
ところで、本として読むにはとても読み応えのある作品だったが、いざこれを舞台にするとなると大変だっただろう。なにせ、幕が下りるたびに場面が変わるからだ。しかも同じ場面はほとんど二度と現れない。全部で 9 場面なので、大道具の準備は大変だ。本番の時の舞台変化も大変で、回転舞台を使ったとしても難しいんじゃないだろうか。
この作品をもって、ハヤカワ・ミステリで発行されているクリスティー作品 90 冊をすべて読んだことになる。とてもうれしい。変な表現だが、やっと重石が取れた感じだ。あとはノン・ミステリーの作品を残すのみ。