ずっと前、新潮文庫の 100 冊で『エディプスの恋人』が選ばれていた。そのカタログの小冊子にあった紹介文を読んで、いつか読みたいと思っていた。それから 10 数年。なぜか読む機会を失っていた（というより忘れていた（苦笑））が、ようやく読もうと思いはじめ、シリーズ第 1 作目のこの作品を手に取った。
実際に読んでみると、期待以上のものでとても嬉しかった。題名から推察できるとおり、8 つのエピソードからなっている。その最初のエピソードでいきなりガツンとやられた。
そういった衝撃だけではなく、描写もすばらしい。SF の名を借りた純文学作品ではないかと思えた。解説者は、これが中間小説誌に連載されていて、読者がついていけないのではないか、という懸念を示していたが、そんなことはないだろう。
面白いのは、主人公の少女の人間くささだ。決して聖人君子的ではなく「結構悪いヤツ」という面もあるのが意外だった。その「悪いヤツ」の面が時として事件を起こしたり、火に油を注いだりして、結局自分をも傷つけることになる。そういう自業自得という現実では当たり前のことを主人公にも課しているのは、リアリズムを重視しているからだろうか。
残念ながら、若干表現が古い。当時の流行の表現を取り入れているためで、星新一さんが逆に流行を取り入れなかったのとは全く対照的で、そのスタイルの違いが興味深い。