『孤高のメス』とタイトルは似ているが、内容は一転して、不倫を描いている。もちろん、メス、というだけあって、医学的な要素もあるものの、重きを置いているのは、2 人の男女の懊悩、だろう。
著者は現役の医者で、それだけに『孤高のメス』は、この人しかかけない、と思わせるものだったけれど、この作品はどうだろうと、読む前は少し不安だった。しかし、それはほとんど杞憂だった。もちろん、本職作家にはかなわない（と思う）けれども、上下 2 冊に渡る物語は十分に読ませられるものだった。
最初は 2 人の問題だったけれど、だんだん話が進むにつれ、その周辺の人々の心も騒ぎ出す様子も描かれている。不倫の女性のほうは、周辺への影響に悩みつつも、それでも不倫を後悔しなかった。はたから見れば、なんてやつ、と思うだろうけど、この女性の性格・心情がうまく描かれていて、意外と感情移入できてしまう。その点が、すごいな、と思った。