この本を読むまで、著者のことは全く知らなかった。では、どうしてこの本に興味を持ったか、というと、どうやって月に建造物を建てるんだろう、と思ったことだった。
今から何年か前に、NHK スペシャルで、月（などの天体）に人類が進出するときのことを考えて、建設会社がいろいろプランを練っている、というのを見たことがある。そのときは、まあ、夢のような話だねぇ、と思っていた。最近になって、『MOONLIGHT MILE』（太田垣康男 著）のような作品が出てきて、ああ、本当に現実化するかもしれない、と思うようになってきた。
で、この作品。とにかく可能な限りシミュレートしていて、よりリアルな感じがあって、とても迫力があった。これだけの事を書くにはきっとかなり調べたり、取材したことだろう。しかし、それが嫌味になっていることは全くなく、面白さに直結している。このあたりは、小松左京さんの『日本沈没』を連想させる。
しかし、小松左京さんと違うのは、具体的な数字を出すことだ。数字の魔力と言うか、数字が出ているだけでとても現実感が増す。あとがきで、いくらか数字をいじってある、ということを書いていたが、逆に言えば、ほとんどはきちんとした数字だ、ということだ。これはすごい。
それから、これは解説にもあるけれど、面白いのは「シミュレート」の部分だけではなく、その動機と手段。これまでの宇宙開発が国主導型だったのに対し、この作品では民間企業主導で行おうとしている。こういった視点は、近未来物としてはおそらくなかっただろう。ある意味「民間にできることは民間で」という現在の流れがあればこそ、できた作品なのかもしれない。今後の SF にきっと大きな影響を及ぼすことになるんじゃないだろうか。